「燿がさ。晶だけには敵わないって思ってるってこと、おまえは知らないだろ?」


そんなの知らない。知るわけない。

だから黙っていると、先輩はそのまま口を開いた。


「ちなみに勉強ができるのは晶の長所だぞ。そこをコンプレックスに思ってることがもう、すげー純粋だと思うんだけどな。そうやって自分ときちんと向き合えるやつって、なかなかいねえじゃん。

もっと甘えていいんだ。意地っ張りで負けず嫌いなところも、あまのじゃくなところも、不器用なところも。俺は全部おまえの長所だと思ってるよ。燿と比べることねーよ。もうちょっと力抜いて、誰かに寄りかかっていいんだ」


心のなかで、なにかが弾ける音がした。

つないでいる指先が熱くて、それでいて冷たくて。いつものどきどきとは違う。

先輩への気持ちがすうっと膨らんで、静かに、弾けた。


「――好きです」

「えっ?」

「あたし……先輩のことが、好きです。だから先輩に寄りかかりたいです」


なにを言っているんだろうって、頭の片隅では分かっていたんだけど。まるで心と身体が別になってしまったみたいに、ためらいもなく、その言葉はこぼれ落ちた。


「……マジで」


先輩がひとりごとみたいに呟く。

驚いたような先輩の顔が目の前にあった。すると、ずっと合っていたはずの視線がふいに外れて、彼が顔を背けて。右手で口元を覆って明らかに狼狽するから、突然心臓がばくばく暴れ出した。

……やばい。どんどん冷静になってきた。なに言ってんだあたし。


「あ、あの! ごめんなさい帰りますっ」

「え!?」

「きょうはありがとうございました!!」

「おい晶……っ」


呼び止めてくれる先輩に背を向けて、そのまま全力で走った。久しぶりに全力疾走したもんだから、足がもつれて仕方ない。

どうしよう燿。ついに先輩に告白してしまったよ。マジで振られる5秒前だよ。

思わず逃げ出してしまったなんて言ったら、燿はまた「しょうもねえ」って怒るんだろうな。