「んー? かわいくて仕方ねえよ。入部してきたときから『健悟さん、健悟さん』って。んっとにあいつは甘え上手だよな」
お母さんにも、お父さんにも、よりかわいがられているのはきっと燿だし。親戚での集まりがあったときだって、女の子のあたしよりも、あいつのほうが「かわいいね」なんて言われたりして。
弟がかわいいことなんか嫌ってほど知ってるっての。
だって、たぶん。燿が生まれたときからいちばんあいつをかわいがっているのは、このあたしだ。
「……ただの甘ったれじゃないですか、あんなの」
「甘ったれと甘え上手は違うって。あいつ、いまも昔も、一生懸命バスケやってるよ。すっげえ努力してると思う。おまえだってそれを分かってるから、試合見て泣いたんじゃねーの?」
毎日、毎日。朝早くに家を出るくせに、全然帰ってこなくって。やっと帰ってきたかと思えば、さっさと寝てしまうだけの生活。
燿みたいな甘ったれによくできるなって、本当は心配もしていたりするんだよ。
「ほんとはおまえがいちばん、燿のこと応援してるんだろ?」
こらえきれなかった。ぽろぽろ、ぽろぽろ、涙が勝手に出てくるから困った。
いい歳して、こんな場所で泣くなんて。それでも先輩は少し笑って、きれいな人差し指で、それを拭ってくれた。
「……泣くなよ」
「だって、悔しい……っ」
「ん、なにが?」
「あいつ、昔はホントにただの甘ちゃんだったんですよっ。それが、なんか知らないうちに大きくなって、お姉ちゃんのことどんどん置いていくんだもん……っ」
淋しいよ、燿。あんたがどんどん大きくなっていく横で、お姉ちゃんはいつもいつも、淋しくて仕方なかったんだ。