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「――ちょっとは機嫌直ったか?」


デートといっても、もう夕方だったので、近くのショッピングモールのなかをぶらついただけだった。

先輩は靴が好きなんだってこと、はじめて知った。そういえば先輩はいつもかっこいいスニーカーを履いている。そう言うと、バイト代はほとんど靴に飛んでいってしまうと、困ったように笑っていた。


先輩とのデートはとっても楽しくって、あっという間に時間が過ぎていって。

いつの間にか燿へのもやもやも、苛々も、全部吹き飛ばしてしまうこのひとはすごいなって、また先輩を好きになる。


「……だから機嫌は悪くないんですってば」

「はは、じゃあそういうことにしといてやる」

「もー。ほんとですよっ」


ふいっと顔を背けると、ふと頬に冷たいものが触れた。冷えたオレンジジュースの水滴に驚いていると、「いらね?」と、軽快な声が降ってきた。

どうやらそこの自動販売機で買ってくれたらしい。


「い、いりますっ」

「燿がオレンジ好きだから、おまえもそうかなって。俺って結構おまえのこと知らねえんだな。燿のことはよく知ってんだけどなあ」


わけもなく、燿にやきもちを妬いてしまう。

先輩が燿のことをよく知っているのは当たり前だ。ふたりには、部活っていう、特別なつながりがあって。そこにはあたしの存在はなくって。


「……先輩は、燿のことほんとにかわいくて仕方ないんですね」


こんな嫌味っぽいこと言う資格なんか、あたしにはないのにな。