先輩に対して声を荒げてしまった。もう泣いてしまいそうだ。
でも先輩は、そんなあたしにも怒らないどころか優しく微笑んでくれるんだから、そろそろ大天使ミカエルなんじゃないかと本気で疑う。
「……晶。どっか寄って帰るか」
「え……」
「なに食いたい? 甘いもん? おまえ甘党だろ」
ずっと、こんなお兄ちゃんが欲しいと思っていた。
面倒くさい泣き言も黙って聞いてくれるような。優しく頭を撫でて、全部を包み込んでくれるような。
先輩が本当のお兄ちゃんだったらよかったのにって、生意気な弟と比べては、何回も思った。
「せ、せんぱいっ」
「んー?」
「いっぱい……愚痴とか、泣き言とか、面倒くさいこと……聞いてくれませんかっ」
でもきっと、そうじゃないんだろう。
先輩にお兄ちゃんになってほしいわけじゃない。きょうだいってそんないいもんじゃないってことを、あたしはよく知っている。
たぶん。先輩が先輩だからこそ、あたしはこのひとを好きになったんだ。
「おう、もちろん」
返ってきたのは優しい声だった。
「じゃ、これからデートすっか」
「え、えっ……!」
「どこ行くかなー」
なんだって。だったらもう少しがんばってお洒落してこればよかった。
少し前を歩く、背の高い先輩を見上げて、いまなら好きだって言えるような気がした。日和に好きだって伝えたとき、燿もこんな気持ちだったのかもしれない。