「……じゃ、あたしはそろそろ帰るわ」
「え、帰んの? 次の試合は?」
「興味ない。バスケ分かんないし、あんたの試合じゃないし」
なんだかとてつもなくもやもやした。燿のキラキラした顔が、なんとなく嫌だった。
もちろん試合後だし、物凄く疲れきった感じはあるのだけど。それでも弟は清々しい顔をして、とても輝いていて。ああ、こいつはちゃんと青春してんだなって思い知らされる。
それに比べてあたしなんか、受験にすら熱くなれない、人生テキトーなクソ野郎だ。
「じゃあ俺も帰ろうかな」
「えっ、健悟さんまで?」
「俺も燿の応援しに来ただけだしな。やっぱ見てるとやりたくなんじゃん」
「えー。まだ全然話してないじゃないっすか」
「いつでも会えるだろ。またメシ行こう」
「……はーい」
あからさまにしゅんとした顔をするもんだから、先輩も困ったように笑うしかない。
まったく、こいつは本当に。さっきまでコート上で走り回っていたやつと同一人物だとは思えないな。
どうしてこんなやつに熱中できるものがあって、あたしにはそれが無いんだろう。なにが違うんだろう。同じ環境で育ってきたはずなのに、なにがいけなかったんだろう。
「じゃ、お疲れ」
「おー。お疲れ」
燿が成長しているのは本当に嬉しいし、感動さえする。馬鹿な弟だと思っていたやつがどんどん大人になっていくのを実感するたび、姉としては淋しくなったりもする。
だけど、涙が出たのはたぶん、それだけじゃないと思う。



