・・・

2試合目が始まるころ、すっかりジャージを着込んだ燿が観客席にやって来た。泣き顔を見られたことでなんだか気まずかったけれど、それはどうやらあたしだけで、燿はいつも通りのすかした顔をしていた。なんかむかついた。


「お疲れさまっす」


燿がぺこりと水谷先輩に頭を下げると、それに答えるように先輩が優しく笑う。


「お疲れさん。にしても、おまえらすげーなあ。あといっこで全国じゃん」

「いや、マジで。俺も正直ちょっとびびってるっすよ」


先輩に頭を撫でられて嬉しそうに尻尾を振る燿は、まるで犬のようだ。そこに日和が「お疲れさま」なんて声を掛けるもんだから、見えない尻尾がもうちぎれそうなほど振り乱れている。


「日和さん! 来てくれて嬉しいよ。ぶっちゃけマジで見に来てくれるなんて思ってなかったし」

「もう来る気満々だったよ! すごくかっこよくてびっくりしちゃった。晶なんか泣いてたんだからー」

「うん。すげーもん見ちまったと思った。今夜うなされそう」


おいふざけんなよこんちくしょう。

本来ならここで回し蹴りのひとつやふたつぶちかましているところだけど、きょうは水谷先輩がいるから勘弁してやる。帰ったら覚悟しとけよクソガキ。

姉が必死に心のなかで呪詛を唱えているというのに、悲しいかな。弟はまったく気付かず、緩みきった顔を日和に向ける。


「日和さん、もう帰んの?」

「え? 燿くんは帰らないの?」

「次の試合の勝者が次の対戦相手になるからさ。見ていけってコーチがうるせーんだよ」

「あ、そっか。じゃあわたしも一緒に見ようかな。さっきの試合でバスケの面白さがちょっと分かったし」


なんだか拍子抜けだ。もっと気まずい空気かと思っていたんだけどな。

燿と日和は、告白したとかされたとか、そんなのはまるで無かったかのように普段通りで、ちょっと安心した。