ひとつのシュートが決まったからといって試合が止まるわけじゃない。あれよあれよという間にゲームは進行して、逆転したりされたり、ぼうっとしていたらついていけないほどだ。

それにしてもよく走るなあと感心した。あんな細っこい身体のどこにそんな体力があるのだろう。そりゃ夜食も食うわな。

キュッキュッと響くバッシュの音に合わせて動くコート上の選手たちを眺めながら、いつしかもう、あたしたちは言葉を失っていた。


大きな選手がふたり、ゴール下でボールを持つ燿をマークした。チビにこの状況はどう見ても不利だし、さすがに可哀想だって。姉心ながらにそう思ったんだけど。

弟は迷いもなく脚を動かしたかと思えば、ふたりのあいだを縫って、跳んだ。


「うわ……」


思わず声が漏れた。

あまりにもきれいな、流れるようなシュートだった。あれがレイアップシュートってことくらい、素人のあたしでもちゃんと知っている。


燿がバスケを始めたのは、あいつが9歳、小学3年生のときだ。

いまでも覚えている。家に帰ってくるなり、突然「バスケがしたい」と言った燿の間抜けな顔。ランドセルも下ろさないままに放たれたその台詞に、お母さんは食べていたせんべいをぽろりと落としていた。

なんでも、その日の体育がバスケの授業だったらしく、先生にべた褒めされたんだとか。東出はセンスあるなあ、の一言で、単純馬鹿な弟は気を良くしたみたいだった。


どうせ続かないと思った。それまでに燿は、小学1年生のときに野球を、2年生のときにサッカーを経験していたのだけれど、どちらもすぐにやめてしまっていたんだ。練習がキツイとかほざいて。

昔からあいつは本当に甘えた男だった。そしてあたしは、燿のそういうところが気に入らなかった。あんたのためにどんだけあたしが我慢してきてやったんだって。

おねえちゃんは習い事しないの? なんて能天気に訊いてきた顔面を、本当は蹴り飛ばしてやりたかったよ。