さすがは準決勝といったところ。会場にはすでにもう人がごった返していて、最前列に座るのはとても大変だった。

その点、日和はすごいやつだ。するすると人混みを掻き分けていちばん前まで行ったかと思えば、どう見ても気の強そうな年上の女性に「この席の荷物どけてもらっていいですか?」って。にこっと笑って言うんだから、水谷先輩が感心していた。


「いやー、日和ちゃんはかわいい顔して実はすげー強かだよな」

「物凄く心強いですけどね……」


日和が確保してくれた座席に3人で腰かけ、斜め下に広がっているコートを見下ろすかたち。

弟はバスケットマンにしてはチビなのですぐに見つかった。背番号7の、落ち着きがないのがあいつだ。

燿は、大河くんとなにやら談笑しながら手首と足首をくるくる回して、流れるように両腕のリストバンドをキュッと直す。

なんだよ、余裕そうにしちゃって。きのうは最高に不機嫌だったくせに。燿は緊張すると機嫌が悪くなるので、とっても分かり易い。


「燿くんのユニホーム姿はじめて見た~! かっこいいね!」

「えー。ただのチビじゃん」

「あはは、晶はホント厳しいなあ。チビじゃないよ。かっこいいよ」

「日和は燿に甘すぎなんだよ」


そんな会話の途中で、先輩に買ってもらった抹茶フラペチーノがなくなった。あのあと、本当にサラッとスタバに入って、日和とあたしのふたり分のフラペチーノを買ってくれるんだから、まったく先輩というひとは。

抹茶の苦味さえ甘く感じたのはきっと先輩のせい。本当に味覚障害なのは、醤油中毒の燿じゃなく、あたしのほうかもしれない。