そうは言っても、頭で納得したことを心で処理するってのは意外と難しいことで。どうしてもその隣には並べなくて、一歩うしろに下がってふたりを眺めた。

……やっぱり先輩には、日和みたいな女の子がよく似合う。


かわいい女の子になりたかった。なんて思ったのは、たぶん生まれてはじめてだ。

お母さんの少女趣味を嫌がらず、あのまま成長していたらよかったのかな。……いや、それもそれで気持ち悪いか。

世界がひっくり返ったってきっと、あたしはかわいい女の子にはなれないんだろう。



「――晶」


ふと、名前を呼ばれた。優しい声だった。思わず勢いよく顔を上げると、思ったよりも近くに水谷先輩がいて、小さく声を上げてしまう。

そんなあたしに先輩は眉を下げて笑った。

彼の向こう側で輝く太陽が、先輩のこげ茶色の髪を照らしていて、とってもきれい。

ちくしょう。どうしてこのひとはこんなにもかっこいいんだ。


「なんでびっくりしてんの」

「だ……だって」

「晶が元気ねーと調子狂うじゃん。さてはおまえ、燿の大切な試合だからって緊張してんだなー」

「違いますよ!」


本当に、先輩には敵わないな。

嫌味とか皮肉じゃなく、本心からそんな発言をするんだから。どこまで鈍感で天然なひとなんだろう。そろそろ腹が立つ。

……早く、好きだってことに。この気持ちに気付いてくれたらいいのに。


「んっとにおまえは仕方ねえなあ。お兄さんがスタバおごってやるから元気出せよ」


ぐしゃりと。少し乱暴に撫でられた頭のてっぺんに血がのぼって、めまいすら覚える。

それでも、笑って歩きだした先輩の向こう側で口元をふにゃっと緩ませている日和と目が合って、その熱はすぐに引いたわけですが。

普段はかわいいのにいやらしい笑顔なんか浮かべやがって。ぜひとも燿と田代に見せてやりたい。