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きょうも例によって弟の帰りは遅かった。また残って練習をしてきたらしい。

やっと帰ってきたかと思えば、慌ただしく夕食を食べて、慌ただしく風呂に入る。姉はというと、そんな弟の生活を毎晩ソファに座ってぼけっと眺める。


本当に忙しそうだ。朝早くに出て夜遅くに帰ってくるから、燿にとってこの家は、寝るためだけの場所という感じがする。

こんな大変な生活を、どうしてこいつはわざわざしようと思うんだろう。なにを必死にがんばっているんだろう。



「――あー疲れた」


低い声が降ってきたと同時に、ふかふかのソファが揺れた。弟の大きくなった手がテーブルに伸びる。

しばらくして、パッと目の前の画面が切り替わった。


「……おい。勝手にチャンネル替えんな」

「うっせ。さっさとその口の悪さ直せデブ」

「あん!?」


近くにあったクッションを手に取り、すかした顔面めがけて投げつけてやる。それでもさすがはバスケ部。紙一重のところでキャッチして、逆に投げ返してきやがるんだから、腹が立つ。


「つか、いいかげん勉強しろよ。おまえ来週受験だろ?」

「いまさら勉強することなんてないもん」

「うわあ、一回でいいから言ってみてえわ」

「あんたは馬鹿のくせにやらなさすぎ」


推薦がきていたS大。ぶっちゃけ、大学でなにを学びたいというのは特に無いけれど、名門大学だということもあって、周りに勧められるがままに受験を決めたんだった。

そうか、もう来週か。忘れていた。

我ながら、人生こんなテキトーでいいものかと、少し不安になる。