自慢じゃないけれど、あたしは生まれてこの方まともに恋愛をしたことがない。自慢じゃないけれど。悲しいほどに。まったく経験が無い。

だからこんなとき、なんて声を掛けたらいいのか分からないな。それどころか、日和に共感してあげることすらできないよ。

三角関数の解き方なら10分もあれば説明できるのに。
漢語のポイントならすぐに教えてあげられるのに。
英文の読解ならいくらでも付き合ってあげられるのに。


「……田代のこと、好きじゃなくなったの?」

「そういうわけじゃないよ。そうくんのことは大好き。……でも、だから別れる」

「ごめん。ほんとにちょっとなに言ってるか全然分かんない」

「あはは、晶は白黒はっきりしてるもんね。でもね、わたしだって、わたしなりにケリをつけるつもりだよ。好きだから、もう傷つけたくないし、傷つけられたくないの」


よく分からない。好きだから一緒にいたい。それじゃダメなのか。

黙ってお弁当の残りに箸を伸ばした。タコさんウインナーは頭から食べる派だ。


「……燿くんがね、好きだって言ってくれたの」

「――げふっ」


また噎せた。今度はタコさんウインナーが気管支に入るところだった。


「あはは、だよねーびっくりするよねー。なんでわたしなんかを? って感じだよ。冗談だと思ったもん。でも……本気なんだって、真剣な目をしてくれて」

「……へ、へえ」

「チューまでされちゃって」


なんだって?


「なんだって!?」


そんな話は聞いてねーぞ、あのクソガキめ。日和になんてことしてくれてんだ。ぶっ飛ばす。きょうこそぶっ飛ばす。