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「そうくんと別れようかなあ」


いちごミルクをズコッと飲みきると同時に、日和がなんとなしにそうこぼした。

その日の昼休み。あたしたちは3年生になってから、晴れの日は屋上でランチをしている。きょうは雲ひとつない晴天で、お弁当がいつもより美味しい気がした。

それなのに。見事に噎せた。お母さんお手製の甘い卵焼きが、変なところに入るかと思った。


「ちょっと晶、大丈夫ー?」

「だい、だいじょ、ぶ……げほっ」


眉をハの字に下げ、困ったように笑いかける日和は、本当にいつもと変わらなくって。さっきの言葉は聞き間違いかと思う。

……なんだって? 田代(たしろ)と別れるって?


「またどうして急に……」

「急じゃないよ。晶も知ってるでしょ、最近上手くいってないの」

「たしかにそうかもしれないけど……いまはほら、受験だのなんだので、みんな情緒不安定なんだし」


早まることもないんじゃないかと思うんだけどな。


日和と田代草太郎(そうたろう)は、高校に入学してすぐに付き合い始めた。まるでそうなることがはじめから決まっていたみたいに、ふたりは出会ってすぐに惹かれ合って、自然と付き合い始めていたと思う。

付き合うってこういうことなんだなって、恋愛偏差値ゼロのあたしは思い知らされたほどで。


「……価値観がね、合わない」


この3年間、あたしがだれよりも近くでふたりを見てきた自信がある。

お互いがお互いだけに向ける照れたような笑顔は、見ているこっちまで幸せにしてくれた。あまりにも仲良しなふたりに、いつも「はいはい」なんて呆れてきたけれど、本当はあたしも一緒に幸せになっていた。

……それなのに。価値観って、なに?