あたししか知らない燿がたくさんあるように、きっと、あたしが知らないあの子の顔が、たくさんあるんだろう。

たとえば、水谷先輩の前で後輩の顔をする燿とか。
バスケ部のエースにふさわしい、きりっとした燿とか。
元カノたちや日和にだけ見せている、男の顔をした燿とか。

歳を重ねるたびに増えていく。知らないことや、見えないもの。それはたぶんお互い様なんだろうけど。


「試合、見に来てください。ケンゴさんとか関係なく」

「えー?」

「あいつがんばってるんで。ぜってー晶さんも見直しますよ、燿のこと。マジでちょーカッコイイっすから!」


……うん。

本当のことを言うと、別人みたいだと思ったんだ。

水谷先輩と一緒にあいつの試合を見に行ったとき。ぶっちゃけ、隣に好きなひとがいる緊張で、きちんと観戦できていたわけではなかったけれど。


我が弟ながらかっこいいじゃねーかと、本当は素直に思った。

身長にはそんなに恵まれていないのかもしれない。コート上には燿より大きな選手ばかりがいた。

それでも、走ったり、跳んだり、声を出したり、笑ったり。


そこにはあたしの知らない、バスケ部のエースをまっとうしている燿がいて、お姉ちゃんは感動したわけだよ。


「あのねー、あたしの弟だよ? かっこいいに決まってるでしょ」

「あはは、晶さんも相変わらずっすねー」


小さいころはびいびい泣いてばかりだったくせに。いつもあたしの後ろをぴょこぴょこついてきていたくせに。


「……困ったやつだけど、あいつのことよろしくね」

「いやー世話になってんのおれのほうっすけどねー」


いつまでもクソガキだと思っていたけれど、いつの間にか変わっていくものなんだな。

最近は弟の成長を体感してばかりで、嬉しいやら、淋しいやら、姉は複雑だ。