ただ、たしかに燿はかわいいんだろうと思う。あいつがかわいいと言われて育ってきたことを、あたしは誰よりも知っている。

口は悪いのに、おかしいなあ。顔もとびきり整っているってわけじゃない。これが天性の弟気質ってやつか。

だったらあたしの前でもぜひかわいい燿くんでいてほしいんだけど、それはそれで気持ち悪いから、やっぱり却下。


「ひかるー」


2年1組の教室。後ろのドアから声を掛けると、燿は少しだけきょろきょろと辺りを見回して、やっとこっちに気付いた。そして、談笑していた輪に一言告げて、ひらりと身軽にこっちにやって来た。


「サンキュー」

「サンキューじゃねーよ。あんたが取りに来いっての」

「センパイの教室行くのなんてやだよ」

「あたしだって後輩の教室来るの嫌なんだよ」


すごく見られているのが分かる。どこの学校にも学年によってカラーみたいなのがあるけれど、燿の学年ってちょっと苦手だなあ。ガラが悪い。ヤンキーみたいなのも何人かいるみたいだし。


「俺はデブに運動させてやってんの」

「あんたはデブしか言えないんですかねえ」


せっかく弁当届けてやってんのに、よくもこんな口がきけたものだ。絶対もう届けてやらない。自腹きって購買のパンでも買ってろ。この野郎。