「……ケンゴさん」


ぽけっとしているあたしの耳に飛び込んできた、もうずいぶんと聞き慣れた名前。

ただひとつ、それを呼んだのが弟の声じゃないってのが、違和感だ。


「――ってのが、晶さんの彼氏候補の名前なんすね!」

「大河くん……いい笑顔してるね……」

「だってひとの恋バナって面白いじゃないっすかー」


そんな爽やかな笑顔でそんな台詞を言い放つなんて、なかなかいい性格をしていらっしゃる。でも、これくらい強かな彼だからこそ、うちの弟と上手くやっていけているのではないかと思う。

いつも弟がお世話になっております、キャプテン。


「ちらっとしか見てないっすけど、イケメンでしたもんね」

「も、もうこの話突っ込まなくていいよ!」

「燿もケンゴさんのこと尊敬してるって言ってました。すっげーいいひとだって」


あいつはどうしてこうもぺらぺらと。どうせ「晶には釣り合わねー」とか言ってんでしょ。クソ野郎。

早くこの話題を終わらせたくてハイハイと相槌を打っていると、大河くんがふと、「でも」と声のトーンを変えた。


「燿だって実は、すっげー自分に厳しくて他人に甘い、いいやつなんすよねー」

「えー……そう?」


あたしには自己中心的なワガママ坊やにしか見えないけれど。

弟だからって小さなころから甘やかされてきたのを、あたしは誰よりも知っている。そのせいで姉はいつも我慢ばかりだった。


「そっすよ。現にいまだって、なんだかんだで晶さんのこと応援してるし。部活でもそうなんすよ? 実はすっげー努力家で熱いやつなんですから。

……ほんとは晶さんも知ってるくせに」


大河くんはこわい子だなあと、時々思う。目の前でにこっと笑いかける大河くんに、返す言葉がなにも見つからなくって、そのままうつむいた。