相変わらず掴みどころのない大河くんに、あたしも彼と同じような笑顔を向けた。そしたら彼も嬉しそうににんまり笑ってくれるんだから、心がほんわかする。

おい、そこでアホ面ぶら下げて漫画を読みふけっている弟よ、見るがいい。この笑顔こそが男子高生の最骨頂だとは思わんか。


「あ、あと、こないだ試合見に来てくれて嬉しかったっす! ぜひまた来てください!」


そんなかわいい笑顔でそんなことを言われたら、毎回でも見に行ってしまうよ。


「彼氏さんと!」


それでも、付け足された爆弾のような単語に、思わず咳込んでしまった。


「――げふっ」

「あれ。違うんすか?」


もちろんそうなればいいなとは思っている。……けど、そんなおこがましいこと、口に出せるわけがなくって。

曖昧に笑うしかないあたしに、今度は燿が反応した。ジャンプの向こう側から、気だるげな瞳だけがぎろりとこちらを見ている。


「いいからまた試合見に来いよ、健悟さんと」

「へあ?」


ぶっきらぼうに、だるそうに。ぼそりとこぼしたその一言に、へんな声がでてしまった。そしたらまた燿の眉間に皺が寄る。


「『へあ』じゃねーよ。じゃ、小テストの勉強するわ」


かわいくない顔のまま、かわいくない声で吐き捨てると、弟は自分勝手に教室のほうへ去ってしまう。

実は燿のほうが何枚も上手(うわて)なんじゃないのかと思った。いつの間にかずいぶん広くなった背中を眺めながら、ちょっとだけ、おかしな淋しさが込み上げた。