本当は回し蹴りをぶちかましてやりたかった。でも、さすがに学校の廊下だし、それに。
「――あ。晶さん、はよっす」
爽やかな声に名前を呼ばれたので、上げかけた脚を思わず地面につけていた。
「あー大河くんおはよう。大河くんからもなんか言ってやってよー!」
「あはは、また痴話喧嘩っすか?」
きっと彼も朝練が終わったばかりのはずなのに、ネクタイはきちっと結んでいるし、ズボンもだらしなく下がったりしていないし。
彼はいつ会っても100%の好青年だ。こんな好青年がよくうちの弟なんかと仲良くしてくれているもんだと、いつも感心する。
……それに比べてうちの燿は。
再び雑誌に集中し始めた燿を横目で睨みつけていると、大河くんが歯を見せて笑った。
「あ、もしかしてジャンプのデリバリーっすか?」
「そうそう。朝から持ってこいってうっさいんだよ」
「めずらしく朝練に持ってきてねーから訊いたら、きょうは晶さんが持ってくるって。いやー、ご苦労さんっすね」
「ほんとだよ。なんであたしがわざわざ持ってこないといけないんだろうねー」
「いやいや、でもおれとしては晶さんに会えて嬉しっすけどね」
なんだと。またこいつは。さらりとなにを言うか。
大河くんはとっても好青年だけど、わりと軽率にこういうことを言うから困る。べつに本気になんてしていないけれど。
これだから2年生という学年はこわいんだ。こんなのは完全なる偏見だけど。