晶はひどく困惑しているようだった。まさに百面相。
俺も突然おかしな恥ずかしさが込み上げてきて、ふたりで馬鹿みたいに変な顔をしていたと思う。
「そ、そっか……。日和かわいいもんな。なんつーか、その……が、がんばれ?」
「うるせーな。こっちは5年も前からがんばってんだよ」
「……うん。さすがにちょっと同情した」
「マジでぶっ飛ばすぞテメェこの野郎」
顔が熱い。だから晶のほうは見れなくて、ふいっと顔を逸らしたまま歩みを進めた。すると、左側から小さな笑い声が聴こえて。
……これだから嫌だったんだ。言わなきゃよかったぜ。
「ごめんね、燿」
「は? なにが」
「あんたの捨て身のビンタは受け取った」
「さんざん殴る蹴るの暴行をしやがったのはおまえだろ。DVだかんな」
「心のビンタだよ、分かってないな。あとこれ愛の鞭だから。鍛えてやってるだけだから」
調子のいいやつめ。おまえのどこに愛があるっていうんだ。
ただ、息を吐いて笑った、その吹っ切れたような横顔を見て、不覚にも。たしかにうちの姉ちゃんはきれいなのかもしれないなと思ってしまった。
晶もいつの間にか女になって、きれいになっていたんだな。知らなかった。
「仕方ないからジャンプ3か月分に延長してやんよ。慰謝料も含めて」
「おーおー。やっすい慰謝料だな」
「あー間違えてサンデー買ってきちゃったらどうしようかなー」
「……ぜひジャンプ3か月分でお願いします」
なぜ俺はこんな姉の恋愛沙汰にてんてこ舞いなのだろうと、我ながら疑問に思う。
でも、たぶん。こればっかりはどう足掻いても仕方ないのだろう。それが姉を持った弟の宿命ってやつなんだ。もう半分は諦めている。
もしかしたら俺は、17年間きっちりこいつに育て上げられてきたのかもしれないな。これが教育の賜物かよ。
ふとそう思って、俺はまたひとつ、うちの姉の恐ろしさを思い知った。