「……でも」


ふと、健悟さんの顔が真剣になった。


「いますぐおまえから大好きな姉ちゃんを奪ってやろうなんて思ってねえからさ。安心していいぞ」

「マジ容赦ないっすよね。シスコン決定かよ」

「いやいや、だっておまえ。大好きだろ? 晶のこと」

「べつに……嫌いなんて言ったことねっすよ」

「あっはっは。かわいくねえやつだなー」


健悟さんは優しいけれど、掴みどころのないひとだなあとは思う。

色々と突っ込んだ質問をしたのは俺のほうなのに、なんで俺が冷やかされてんだよ。このひとのなかで俺はもうシスコン認定されているらしい。


「俺にも姉貴がいるからさ、分かんだよ」

「えっ、そうなんすか? 姉ちゃんが?」

「そうそう。5つ上のやつなんだけど、すげー怖い女でさ。俺なんかガキのころからオモチャにされまくり」

「う、うわあ……すげー分かる……」


俺も、ガキのころから晶のサンドバッグにされまくりだ。

たぶんそういうのが弟の宿命なんだろう。なんだかんだ言って、俺はきっと一生あいつに逆らえない。だって、あいつよりずっとでかくなったいまだって、おとなしくサンドバッグしてやってんだぜ。

むしろでかくなってからのほうが容赦ねーよ。


「わはは、ほんと弟ってのはつらいよなー。今度はふたりでメシ行くか」

「ぜひともよろしくお願いします」


そう言いながらも笑う健悟さんの顔を見て、つくづく弟ってのは不憫だなと思った。俺も晶の話をするときこんな顔してんのかな。マジかよ。

男どうし、弟どうし、バスケットマンどうし。いままで以上に親近感を覚えながら、このひとの姉ちゃんはどんなひとなんだろうと、ぼんやり思った。

こんなひとをオモチャにできる女なんだ。きっと晶と同等か、それ以上に強いに決まっている。