健悟さんが連れてきてくれた寿司屋は、数量限定の海鮮丼が名物らしい。昼開店で、本来なら15時を過ぎるころにはもう完売しているのだけど、店長さんが健悟さんの叔父にあたるひとらしく、今回は特別に用意してもらえたんだと。
それにしても、だ。
なんてこった。めちゃくちゃ美味いじゃねーか。
「美味い?」
「ちょー美味いっす……」
「ならよかった。燿のきょうの勝利祝いな」
いや、マジで。晶みたいな姉ちゃんより、健悟さんみたいな兄ちゃんが欲しかったよ。いまからでも晶と選手交代してくれねーかな。
むぐむぐと口を動かしながら、じとっと晶を見ると、今度はすねを蹴られた。いてえ。すねは洒落になんねーよ。おい。
「晶は? 美味い?」
「え、あ、ちょー美味い、です!」
「わはは、おまえら喋り方いっしょだな!」
「あっ……、すっごく美味しいです……」
「うん、よかった」
……なんだよ。やっぱり俺、必要なかったんじゃねーの。
目の前に並んで座るふたりはなんだかいい感じで、ちょっと居心地悪い。
「晶はなにが好きなんだよ?」
「えっと……イクラと、ウニと、甘えびと、それからまぐろと……カニと……ホタテ……サーモン……」
「ぶは、全部じゃん」
「だって全部美味しいですもん!」
いつになくかわいい顔をする晶と、とびきり甘い笑顔を浮かべる健悟さんと。そんなふたりのあいだには俺の入れそうな隙なんか微塵もなくて、黙って箸と口を動かすしかない。
俺はいったいなんのためにここにいるんだっけか。晶に踏まれて蹴られるために来たようなもんじゃねーか。ちくしょう。
最後に残しておいたウニを黙って口のなかに放り入れた。海鮮丼が素晴らしく美味いことだけが、いまの俺の救いだ。



