いままで見えていたものが突然見えなくなるってのは想像以上に怖くて、怒ることも忘れていた。

すると晶は、驚いている俺に追い打ちをかけるように、今度は大きな声を出しやがった。朝からうるせえ。


「水谷先輩が! ごはん! 行こうって!」

「は……?」


べつに、言うのをためらうような内容でも、ひとの視力を奪ってまで言うほどの内容でもないだろう。

ただ、晶がいまは顔を見られたくないのであろうということだけは分かった。たぶん真っ赤になってんだ。18にもなって。

そうだ。18にもなって、好きなやつからメシに誘われたくらいで顔を赤くしてしまうのが、うちの姉だ。


「ぶふ……」

「な……なに笑ってんだよ!!」

「くっくっく……」


健悟さんが以前、メシに誘ってくれていたことは知っていた。晶も行きたそうにしていたし、俺も部活が無けりゃいつでも行きたいと思っていた。

ただ、だれも具体的な日程を決めようとしないので、よくある社交辞令なんだろうな、なんて思っていたのだけれど。


「はー、笑った。誘われたのかよ? いつ?」

「き、きのうの夜……、LINEしてて」

「へえ。俺もって?」

「……いや、だって、そうでしょ。前もゴハン行こうって言ってくれてたし」


たぶんだけど、健悟さんは晶とふたりで行くつもりで言ったんじゃねーかな。それなのにここで弟を誘うあたり、晶の恋愛偏差値は中学生以下だ。

健悟さんの気持ちを思うと、同じ男としてちょっと涙が出る。こんな姉で本当にすみません。よろしくお願いします。