鏡に映った姉がせっせと精一杯のお洒落をしているのを見ながら、ぼりぼり腹を掻いてあくびをした。そしたら蹴られた。不意打ちで。朝飯が全部出るかと思った。

こいつの蹴りは天下一品だと思う。結構いてえんだ。空手でもやってたら世界チャンピオンくらいサラッと獲れるんじゃねーかってほど。


「いってえな! つかパンツ見えるからな、それ。ぜってー外でやんなよ」

「あん? なに勝手にパンツ見てんだ。金払え」

「むしろおまえが慰謝料払え」


彼氏もいねーくせに、いっちょまえに色っぽい下着なんか穿きやがって。その淡い紫色のレースを見てくれる男を作ってからデカイこと言えっての。


「……ていうか」


全力で俺を一発蹴ったあと、鏡に向き直り、眉毛を整え始めた晶が、鏡越しに俺を見た。ちょっと口を尖らせながら。


「なに」

「あんたさ、今度の日曜空いてる?」

「……あー。昼まで試合だけど。なんで?」


晶が俺の予定を聞いてくるのなんてめずらしい。5年ぶり3回目くらいじゃねーのか。

鏡のなかの姉を見れば、目を泳がせてさらに口を尖らせるので、さらに怪しさ満載だ。


「てことは夜は空いてる? 試合のあとだと疲れてる?」

「いいからまず用件」

「……ん、……こう、って」

「は? 聞こえねえよ」


イラッとして眉をしかめると、晶が物凄い勢いで振り返った。そして俺の顔から眼鏡を奪うと、それを乱暴に鏡の前に置いた。

結構な近眼の俺は、裸眼にされるとマジでなにも見えなくて、困る。