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ガキのころ、晶は母さんに少女趣味な服を着せられていた。フリッフリのやつ。本人はすげー嫌がっていた。

あいつが男みたいな喋り方をするのも、制服以外でスカートを穿こうとしないのも、たぶんそのせいなんだろうと思う。


そんな晶が色気づき始めたのはいつだったか。

髪型を気にするようになったのは。制服のスカートを短くするようになったのは。化粧品を買ってくるようになったのは。

中学に上がってぐんと大人っぽくなったかと思えば、高校に上がってまたぐんと大人っぽくなりやがって。どんだけ前髪にストレートアイロン当ててんだよ。焦げるぞ。


「……なあ。まだ?」

「うっさいなー。見れば分かるでしょ。どっか行ってろよ」

「朝練あんだよ。マジで早くして……」

「は? 寝坊したやつが文句言ってんじゃねーよ」


我が家には、朝の洗面所の使用は早いもの順というルールがある。

だいたい俺がトップバッター。でも、場合によっては晶がトップのときもあるし、父さんのときだってある。母さんはパートに出ている主婦なので、だいたいいちばん最後だ。

そしてきょうは、早々に起きて朝飯を終えた晶がいちばん最初に洗面所に立ったらしい。

早いもの勝ちってルールには納得しているし、きょうは俺も若干寝坊したから、それは仕方ないと思っている。でもちょっと長すぎやしねーか。どんだけアイロンしても剛毛は剛毛だっつーの。


「遅刻したらどうしてくれんだ」

「だったらそのダッサい眼鏡のまま行けば」

「だったらおまえも頭ボサボサで行けばいいだろ。学校に健悟さんはいねーぞ」


実の姉がお洒落やファッションに無頓着なのも、たしかに嫌だけれど。ただでさえ時間のない朝なのに、低血圧な俺にとって、正直これはキツい。