ぱちぱち、ぱちぱち。大きな瞳がいつもの倍速でまばたきをするもんだから、こっちがびっくりする。
「う、うそ……。燿くんが? わたしを……? え、なんで、どして……、えっ!?」
日和さんはとっくに俺の気持ちなんか知っていると思っていたのに。それも俺の思い込み。独りよがりだったんだ。
俺が思っているよりもずっと、彼女は俺のことなんか見てくれていなかったってことだ。
「え、と……その、わたし……」
「日和さん」
「え……」
キスをしたのは、このどうしようもない悔しさを、どこにぶつければいいのか分からなかったから。
もっと困ればいい。もっともっと俺のことを考えればいい。5年も片想いしてんのに、この気持ちにすら気付いてくれていなかったなんて、どんだけ鈍感なんだよ。ふざけんな。
そっと触れるだけのキスだった。それでも少し長めに離してやらなかったのは、単にいじわるをしてやりたかっただけだ。
「――ひか、る、く……」
静かに彼女から離れると、小さくて赤いくちびるが戸惑って震えた。彼氏はこのくちびるに幾度となく触れているのかと思うと、心臓が抉れる感じがした。
「……ごめん。でも、いま振られるのはやだ」
「え……」
「いまさ、大事な大会中なんだ。だからそのあとで返事聞かせてほしい。それまでは、ちょっとでいいから俺のことも考えててよ」
なんてったって、こっちは5年間もこの想いに悩まされているんだ。数か月くらいは悩んでくれないとやってらんねーよ。