「……なに見てんの」
「べっつにー。色気づいちゃって嫌だなあと思っただけー」
「色気づいてんのはどっちだよ」
だいたい予想はついていたけれど、「太い脚なんか出しやがって」と続いたので、間髪入れずにお尻に蹴りを入れてやった。
「いってえな!」
「うるせーな。さっさと学校行けこのクソガキ」
「おまえマジでその口の悪さと脚癖の悪さ直せコラ」
口が悪いのも、脚癖が悪いのも、残念だけど燿にだけは言われたくない。まあ、こいつのはあたしに似ちゃったんだろうけどさ。
でも、そもそもあたしがこんなふうになってしまったのは、ブリブリ趣味なお母さんのせいだ。
幼いころからリボンやレースを着せられてきた。すっごく嫌だった。男勝りというか、ガサツというか、それはきっと、お母さんへの無言の反発なんだろう。
そして、そんなあたしを見て育ってきた燿も、だいたい同じような感じに出来上がった。男の子だから心配いらない気がするけど、たぶん潜在的な防衛本能なんだろうな。
ちなみに、いまだにお母さんはあたしにフリッフリな服を着せたがる。もうホント勘弁してください。
「うわやっべ、もうこんな時間じゃん! 俺行くわ!」
「へいへい、いってらっしゃい」
教科書なんかほぼ入っていないスクールバッグと、大切にしているバッシュを急いで掴んで、燿は光の速さで玄関を出た。部活のことになると真剣になる弟は、きっと本当にバスケが好きなんだろう。