「……あのさ。ちょっと話す?」


突拍子もない提案に、日和さんよりも俺自身が驚いていた。もうちょっと気の利いた言葉はなかったのか、俺。『ちょっと話す?』ってなんだよ。中学生かよ。晶のこと馬鹿にできねーよ。

でも、たぶん。俺がなにを言っても、彼女はへらりと笑うだけだろうから。やっぱりこういうとき年下ってのは不利だよな。悲しいほど。


「……あは。やっぱり燿くん、見るたびに男前が上がっていくよねえ」

「なんだよ、それ。馬鹿にしてんじゃん」

「してないよ。ちょー褒めてる! 焦っちゃうもん」


そんなの、俺だって。いや、きっと俺のほうが、物凄く焦っている。

日和さんは見るたびにきれいになっていくから。それでもどうしたって、俺のものにはならないんだから。


「……うん。じゃあ聞いてくれる? わたしのしょーもない愚痴」

「いいよ。ジュースくらいなら奢る」

「えー! 年下に奢ってもらうの、わたし? わたしが奢るよー」

「やだ。女の子に奢ってもらうの、俺?」


どちらからともなく、来た道を引き返し始めていた。出会ったころは俺のほうがチビだったのに、いまはもう彼女のほうがずっと小さくて、変な愛しさがこみ上げた。

女の子の歩幅に合わせるのって案外難しい。どんな女と歩いているときもそんなこと考えたりしないのに。

日和さんは小さい。小さいくせに、なんでもないような顔で笑っている彼女は圧倒的に大きくて、悔しくてたまらない。


「燿くんってホント優しいよねー。これは晶の教育の賜物かなあ」

「は? あいつを教育してやったことはあっても、教育された覚えなんてねーし」

「あっはは! 相変わらず仲良しだなー」


どのへんが仲良しなのか説明してもらいたい。あいつと仲良くした記憶などない。べつに晶のこと嫌いってわけじゃないけれど。