勉強を教えてほしいと言ってきたわりには、倫はいっこうにそれを始める気配がない。

誰のせいで俺がベッドで単語帳を眺める羽目になっていると思ってんだ。


「おまえさー。受験生なんだから、ちょっとは真面目に勉強しろって。俺と一緒の高校に入りたいんじゃねえの?」

「そうだよ? でもひかるだって合格したんだから、倫も余裕かなって」

「言っとくけどな、俺は全っ然余裕じゃなかったぞ……」


なにせ相手は県下ナンバーワンの進学校。1ミリも勉強せず主席で合格した晶とは裏腹に、俺は中2の冬から猛勉強を始めて、ギリギリで合格したくらいだ。

受験で完全燃焼したからか、いまは正直、進級できるかどうかほどの勉強しかしていない。おかげで三者面談ではいつも嫌味を言われる。

言っておくが、決して俺が出来ないわけじゃないんだ。晶が出来すぎるだけで。そこんところをきちんと理解してほしい。


「じゃあじゃあー、合格したら倫のこと彼女にしてくれる?」

「なんでだよ。しねーよ」

「えー。ひかるはいつになったら倫に振り向いてくれるのー」

「一生振り向かねーよ。つか、もうそういうのいいって」

「そういうのってなに! 倫は本気なのに!」


ぶーたれる倫を無視して単語帳に視線を落とすと、どすん、と。突然腹の上に重みを感じて、肩がびくっと跳ねた。


「倫、おっぱいだっておっきくなったよ?」

「――ぶっ」


いきなりなにを言いだすかと思えば。15歳の女子中学生の発言とは思えない。もっと恥じらいを持ってほしい。

倫にはたぶんすげー勢いでナメられているんだろうが、俺だってやりたい盛りの17歳なんだ。