メシを食い終わって、風呂に入って。あしたの小テストの勉強でもしておこうかと、古典の単語帳を開きかけたときに、そいつはやって来た。


「――ひかるっ」


倫はガキのころから本当によくうちに来ていて、もう家族みたいなもんで。だからたぶん、母さんも父さんも、そして晶も、ウェルカムモードだったんだろう。

ノックもせず、当然のように俺の部屋のドアを開け放った倫に、持っていた単語帳をぼとりと落としてしまった。


「ひかるー会いに来たよー!!」

「いや帰れよ」


倫の耳は、自分に都合の悪いことは聞こえない仕様になっているらしい。

ずかずかと部屋に入り込んできて、机の上に教材を置いて。そして振り返って、どこで覚えてきたのかも分からない上目づかいで俺を見つめた。

こうして見ると倫も成長したんだなあ、なんて、ぼんやり思う。

いや、こんな非常識な時間に突然押しかけてくるあたり、中身は幼稚園のころからなにひとつ変わっていないんだが。


「ねー、ひかる。勉強教えてー」

「やだよ。俺だって勉強あるし。つか、勉強なら晶に教えてもらったほうがいいだろ」

「えー。だってあきらちゃん、頭良すぎてなにしゃべってるか分かんないんだもーん」

「ぶは、たしかに」


弟の俺が言うのも何だが、晶は頭が良い。物凄く良い。俺が学校で教師たちに「どうして弟のほうはこんなに出来が悪いんだ」と言われるくらいには、突き抜けている。

未だに、俺が晶と同じ高校に通っているということが、ちょっと信じられないくらいだ。