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ドアを開けると、母さんのカレーの香りがした。帰りに大河とコンビニで買い食いをするのが定番なのだけれど、家に帰るころにはもう腹が減っているのだから、自分でもびっくりする。


「ただいまー腹減ったー」

「おかえり。すぐご飯食べる?」

「うん」


制服はあまり好きじゃない。帰るとすぐにリビングで制服を脱いで、そこらへんに散らかっているスウェットを着る。

と、若干一名、ギャンギャン喚くやつがいる。


「だから部屋で着替えろって言ってんじゃん」


大河いわく『キレーな姉ちゃん』らしい、鬼のような姉貴だ。


「いちいち部屋行くのなんてめんどくせーよ」

「制服くっちゃくちゃにして、誰がハンガーに掛けると思ってんだよ」

「置いといてくれたら自分でやるっつのー」


そうは言っても、晶はぶつぶつ文句を言いながら、それでも俺のブレザーをハンガーに掛ける。

晶は超が付くほどの几帳面なんだ。これだからA型は。


「ここ掛けとくから、あとでちゃんと部屋持っていきなさいよ」

「へーい」


つか、どう考えても年頃の女の反応じゃねーよ。弟の上半身を見て照れるどころかキレるって。「キャッ」くらい言えよ。

母さんのカレーはいつも最高に美味しいけれど、晶に合わせて甘口だから、最近は少し物足りない。こんななのに辛いものが食べられないなんて、ギャグかと思う。