彼女とはじめて会ったのは、俺が中学に入学した、まさにその日だった。まだ俺があいつを「ねーちゃん」と呼んでいたころ。
パリッパリでテッカテカの学生服に身を包んだ俺に、「燿くん入学おめでとう!」と。ふてぶてしい晶の隣でそう優しく微笑んでくれたのが、日和さんだった。
なんで名前知ってんだろう、とか。このひと誰だろう、とか。色々と思うことはあったけれど、弱冠12歳の青くさいガキにとって、その微笑みはあまりにも衝撃的で。
それまで、女なんてのは、母さんと晶、それから同級生の女子しか知らなかったから。そんな俺にとって、日和さんは圧倒的な天使だったんだ。そりゃ好きになるだろう。
……いや、まさかこんなにも長いこと好きでいるなんて、当時は想像すらしていなかったけれど。
もちろん、いままでテキトーに色んな女とも付き合ってきた。でもやっぱり、俺はどうしようもなく、彼女のことが好きだった。
日和さんはずるいんだ。とっくに俺の気持ちなんか分かっているくせに、俺のことなんか全然相手にしてくれない。
それどころか完全に弟扱いだ。燿くんはかわいいね、なんて言われても嬉しくねーよ。わざとかよ。ふざけんなって。
それでも、高校生になったら、なんて期待はあって。
死ぬほど勉強して、せっかく同じ高校に入ったのに。同じ時間を過ごせば過ごすほど、気持ちはどんどん募っていったのに。
日和さんは俺なんかアウトオブ眼中で、勝手に他の男と付き合ってんだもんな。しかも生徒会長の爽やかイケメンって。俺の4年半の想いは完全無視かよ。
まったく、本当に嫌になる。能天気にピンクのオーラを放つ姉を見てると、そりゃむかむかもするっての。