「そういえば、水谷先輩にも『ありがとうございます』と『ごめんなさい』言っときなよ」
「なんで」
「あのあとね、わざわざあたしのこと待ってて、『燿と仲直りしろよ』って言ってくれたんだよ。先輩はなーんにも悪くないのに、むかつくくらい燿のこと庇ってくれてたんだから」
燿の顔がぱあっと明るくなった。やっぱり水谷先輩はすごいひとだ。
と、思ったと同時に、それはまた不機嫌な顔に戻って。なんだなんだと思っていると、燿はむすっとしながらアイスを指さした。
「じゃあ俺の284円は意味なかったってことかよ」
「は?」
「おまえは健悟さんのおかげでゴキゲンなんだろ。俺のハーゲンダッツじゃねんだろ。なんだよ! 284円返せよ!」
いや、知るかよ!
「こんな時間にアイスなんか食って、またデブになんだからな」
「あんたが買ってきたんでしょーが」
「うるせー」
おまえなんか溢れんばかりに太れ! と。呪いのような言葉を吐き捨てて、燿は部屋から消えた。
意味が分からない。結局なんだったんだ。怒らせにきたのか。
「……ぶは。ほんっと、馬鹿」
燿はなにも分かっていない。
ちゃんとあんたの284円はあたしのゴキゲンに貢献しているというのに。勝手に勘違いして、勝手に拗ねて。我が弟ながら馬鹿すぎて、なんだかもう一周まわって、かわいいとすら思う。
やっぱりどう足掻いたってヤツはあたしの弟だ。だって、こんなに腹が立って、こんなにかわいいやつ、たぶんそうそういないでしょう。
悔しいけれど、燿が買ってきたラムレーズンは、本当に美味しかった。