だらしなくお尻まで下がったグレーのスウェットを直しもせず、寝癖のついた髪をわしゃわしゃと掻く。
ちゃんとキッチンに食器を下げるのはお母さんの躾の賜物だとしても、なんだかなあ。あたしの弟の後ろ姿があんなだなんて、ちょっと、いやとても、不本意だ。
着替えるために自分の部屋へ向かった燿の背中を眺めながら、わざとらしくため息をついた。
「あきらー」
「なにー」
食後のココアを飲んでいると、ふいに洗面所から呼ばれた。燿だ。
「おまえ俺のコンタクトケースどこやったんだよ」
「どこにもやってねーよ」
「無えんだけど」
「知らんわ。どうせあんたがテキトーなとこに置いたんでしょうが」
本当にだらしないやつ。これだからO型は。いつもなにかモノを失くすと真っ先にあたしのせいにして、結局は自分の管理不足ってオチなんだ。
今回だってきっとそう。
「晶、ちゃんと見に行ってあげて。燿はもう出なきゃいけないんだから」
お母さんは燿に甘い。差別されているわけではないんだろうけど、どうしても母親にとって息子ってのはかわいいらしい。
かわいいかねえ。そりゃ昔は天使みたいにかわいかったかもしれないけど、いまではちょっとイキがった高校生でしかない。コンタクトケースが無いならそのダサい黒縁めがねで行けっての。