歩みを止め、ぽかんと彼の顔を見上げるあたしに、先輩はまた笑う。


「はは、おっまえ。人には訊いといて、自分はノーコメントかよ?」

「――い、いますっ!!」


います。目の前に。


「……好きなひとなら、います」


夜でよかった。駅のライトも少し危険だけれど、真昼だったらきっとこんなもんじゃない。顔が真っ赤なことなんてバレバレだ。


「そっか。晶もどんどん女になってくんだなー。もう18だもんな」

「先輩だってもう大学生じゃないですかっ」

「んー。そうか、それもそうだな」


そう。あたしたちのあいだには、大学生と高校生なんていう、圧倒的な壁があって。

先輩の言う『好きになるかもしれない子』とやらは、きっととってもきれいでお洒落な女子大生なんだろうと思うと、本当は物凄く絶望だ。

それでも、あたしは高校生のガキで、恋愛初心者のクソガキだから。


「けど、ほんとにきょうはびっくりしたんだよ。あんまり焦らせんな、馬鹿」


そんな台詞と、こんな頭わしゃわしゃだけで、この上なく幸せだと思ってしまうのだ。


「帰ったら燿と仲直りしろよ」

「……はーい」

「あはは、むくれんな。じゃ、俺はここで。バイトあるからさ」


きょうも先輩は、あたしが改札を抜けて、ホームまでの階段を上るまで、そこで見送ってくれた。やっぱり最後に右手を挙げる仕草がとても爽やかで、もはや燿への苛々なんて吹っ飛んでしまうのだから、水谷先輩ってひとはすごい。