「つか、待ってないって言ってんだろ」なんて冗談を言いながら、けらけら笑う先輩を盗み見て、胸が苦しくなった。


「……先輩」

「んー?」

「先輩ってモテますよね」

「――ゲェホッ」


言った瞬間、物凄い勢いで噎せた。いつもかっこいい先輩がゲホゲホ咳をしているのを見るのは初めてで、ちょっとびっくりした。


「……ぶ、ぶっ飛ぶなあ。げほっ」

「先輩は、彼女……とか、いないんですか」


文化祭の余韻と、夜の闇と。それから、あとは燿へのもやもやとか。先輩と一緒に帰っているというシチュエーションとか。

とにかく色々なものが胸のなかで渦巻いて、おかしなテンションのまま、おかしなことを口走っている自覚ならあった。


「いねーよ。急になんだよ、はは」

「じゃ、じゃあ好きなひとは……!」

「うーん。……そうだな。好きになるかもしれない子なら、いる」


先輩がそう答えたところで、正面に駅が見えてきた。駅のライトのせいで途端に明るくなる視界と、増えてきた人口のせいで、少し現実に戻って。

なんつーことを口走ってしまったんだと少し後悔した。そして、変なことを訊いてしまってごめんなさいと、そう謝ろうと思った。


「で、おまえは? 彼氏とか好きなやつとか、いねえの?」


それなのに。先輩がさらりとそんなことを言うもんだから、完全にタイミングを見失ってしまったじゃないか。