水谷先輩はとても優しいひとだけれど、そんなことはあたしがいちばん知っているのだけれど。
それでもさすがに1時間も待ってくれているはずがないって、どこかで自分に言い聞かせていた。
「――おお、晶」
それなのに、なんて罪なひとなの。長時間待っていたなんて素振りは微塵も見せず、笑ってこちらに手を挙げてくれた先輩に、なんだか泣きそうになった。
どうしてあなたはそんなにもかっこいいのですか。なに食べてるんですか。少なくとも、醤油まみれの目玉焼きを食べていないことなら分かります。
「お疲れさん」
「遅くなってごめんなさい……!」
「ん、全然待ってねーよ」
いやいや。1時間は待ってただろあなた!!
先輩があまりにもヘタクソでとても優しいジョークを言うから、思わず笑ってしまって。そしたら先輩も「笑うなよ」って笑ってくれるから、胸の奥のほうがきゅんとした。
「急に連絡してごめんな。晶はクラスで打ち上げとか無えの? 燿は打ち上げっつってたぞ」
「いちおう受験生なんで……」
「あー、そっか。つっても晶ならどこでも行けんだろーこのやろー!」
「そんなことないですよ!」
まるで頭のてっぺんに神経と血管が集中していくみたい。先輩にぐりぐりされたところだけ、妙に熱くてたまらない。
自然に触れてきたその手は思っていたよりも大きくて、バスケしてるひとの手のひらだなあと思った。そういえば、燿も手だけは無駄に大きかったような気がする。