いや、正確に言えば、水谷先輩はこのタイミングで登場したわけじゃない。

もともと彼も燿と一緒に来ていたのだけど、かわいいかわいい弟のインパクトがあまりに強くて、目に入らなかっただけなんだ。


……最悪だ。あたし、先輩の前でなんて言った?


「燿な、照れ隠しも度が過ぎるとただの悪口になんだから気を付けろよ」

「だっ……だれが! 照れてなんか!」

「ハイハイ。燿はいつまでたってもガキだなー」

「……っ健悟さんなんか嫌いだ……」


口を尖らせて、むくれて。あたし以外の前では憎いほどかわいい弟の顔をするんだから、燿はタチが悪い。

そんな燿をなだめた先輩は、日和に軽く会釈すると、困ったような顔をあたしに向けた。


「びっくりした。どこのアイドルかと思ったわ」

「え!?」


それって。……それって、まさか。


「カワイイってことですか!?」


心の声が漏れてしまったかと! 思うだろうが!!

口をぱくぱくさせるしかないあたしの隣では、目を輝かせた日和が身を乗り出している。


「あはは! どストレートだな! でもそういうのって軽々しく言うもんじゃねえかなって。相変わらず日和ちゃんは元気だなー」

「えっ、わたしのこと覚えてくれてるんですか!?」

「もちろん。晶と仲良かったから覚えてるよ。変わってなくて安心した」


正直もう、ふたりの会話なんて耳に入ってこないくらいには浮かれまくっていた。

かわいいって。そう思ってくれたって、自惚れてもいいのかな。……とても現金だけど。メイド服、ありがとう!