「――あー、あっちい」
お母さんが洗い物をするためにキッチンに立ってしばらくして、憎たらしい声が降ってきた。それと同時に、目の前の画面がぱちっと切り替わった。
おい。いますごくいいところだったの、あんたには見えていなかったのか。
「……だからチャンネル替えんなっつってんじゃん」
「は? だったらリモコン死守しとけよ」
このクソガキめ。そのめがねを粉々にしてやろうか。
しょうもないバラエティに切り替わった画面を見つめる瞳に、はらわたが煮えくり返る。ときどき会うくらいならかわいいかとも思っていたのに、なんじゃこりゃ。びっくりするほどかわいくないわ。
「あーあ。せっかくお祝いに高いケーキ買ってきてやったのに」
「え、マジで」
「あんたは食うな。あたしが2個食べる」
「ふざけんなよ、おい」
それはこっちの台詞だっての。せっかくインターハイを決めたんだから、もっとちゃんとおめでとうって言ってやりたかったのに。ウィンターカップの悔しさの分まで、ちゃんとお祝いしてやりたかったのに。
いったいなんだろう、この態度は。
「マジで悪かったって。ケーキ食わせて」
「うるせーな、どっか行け」
「……たかだかチャンネル替えられたくらいでキレるとか、心狭すぎかよ」
「あん!?」
「あーなんでもねえっす。すみませんっしたあ!」
ばっちり聞こえたからな、この野郎。こんなやつにケーキは絶対やらん。