目玉焼きにはケチャップと決まっている。

つやつやな真っ白の上に下品な黒をどばどばぶっかけるなんて、目玉焼きに失礼だ。

だから、そんな邪道をしているのが血を分けた弟だと思うだけで、鳥肌が立つ。どんだけかけんだよ。もう白いとこ残ってねーよ。おい。


「……あんた、胃に虫湧くよ」

「あ?」


ぼそりとこぼすと、黒縁めがねの向こうの瞳が、不機嫌そうにあたしを睨んだ。


「日本人は黙って醤油って決まってんの。ケチャップなんつーアメリカンな調味料が目玉焼きに合うわけねえだろ」

「いや、それもう目玉焼きっていうか醤油じゃん。味覚障害かよ」

「目玉焼きにケチャップかけてるおまえのほうが味覚障害だよ」


ひとつ下の燿(ひかる)は、小さなころからどうしてもトマトだけがダメらしい。だからケチャップもダメ。人間の食いもんじゃねえとすら言っていた。

だからうちのオムライスはバターライスで出てくる。もちろんお母さんのオムライスはとても美味しいけれど、そんなわけで、あたしは昔からケチャップライスに憧れている。


「しゃべってないで早く準備しなさいよ。燿は朝練あるんでしょう」

「へいへーい」


洗濯物を干しているお母さんに声を掛けられると、燿はかったるそうに返事をして、真っ黒な目玉焼きを口のなかに滑り込ませた。


「晶(あきら)は? きょう早えの?」

「んーん。きょうはゆっくり」

「あ、そ。んじゃ先出てるわ」


おまえの口はバキュームカーか。しゃべりながらよくそんなにも食べられるな。

用意された朝食を、たったそれだけの会話のあいだに平らげて、燿は食卓を立った。