遠距離恋愛というものに付きまとう不安は、離れたあとよりも、離れる前のほうがあったように思う。実際に離れてみて、もちろん淋しくは思うのだけど、不安ってものはほとんど消えてしまった。

先輩はいったい何者なんだろう。毎日連絡をとっているわけでも、顔を見ているわけでも、声を聴いているわけでもないのにな。なんでだろうな。

こんなにも絶対的な安心をくれるひとは、きっとほかにいない。


「わー焼肉ー!!」

「ミノとセンマイと肝っておまえ。絶対強いだろ、酒」

「えーお酒はまだ飲んだことないよ」

「お、マジで。えらいじゃん」


トングでレバーをひっくり返しながら先輩が笑う。そんな彼はがっつり生ビールを飲んでいるんだからずるい。

晶も飲めばいいと言ってくれたけれど、もし失敗して醜態を晒してしまったら死にたいので、きょうは我慢した。それにまだ成人は迎えていないし。


「あ、そうだ。健悟さん、浮気してない?」

「うわ、でた。してねえよ。ほんっと信用されてねーなー」

「そうですよ、されてませんよ」

「わはは、ひっでえな」


だってこんなにかっこよくて優しいひと、普通の女の子なら放っておくわけがない。先輩にその気がなくても、お酒が入ったらなにがあるか分からないし、迫られたら男は弱いに決まっている。

……なんて。そんなこと本気で思っているわけじゃないけれど。

「浮気した?」「してねえよ」の会話は、ふたりのあいだではもう、お決まりのじゃれ合いみたいになっている。