東京に来て早数か月。都会独特の空気にももうすっかり慣れて、大学生活もそれなりに楽しめるようになった。日和とのふたり暮らしは思ったよりもずっと楽しい。
東京で迎えるはじめての夏、弟がついにインターハイを決めたとの朗報を受けたので、お祝いのために帰ることになった。
ちなみに日和はお留守番。どうしてもバイトを休めないらしい。とっても残念そうにしていた。
「――健悟さん!」
数時間新幹線に運ばれ、久々に上陸した地元の駅。なにも変わってないことにほっと安心する。
改札まで迎えに来てくれた恋人に声をかけると、相変わらず眩しいほどの笑顔をくれた。会うのは綾さんの結婚式以来だから、たぶん2か月ぶりだ。
「おー。おかえり、晶」
「ただいまっ」
「わはは、荷物ありすぎ。1泊2日だけの帰省だろ?」
そう言いながら自然に荷物を持ってくれる先輩は、世界でいちばんかっこいいと思う。彼女のひいき目なのはちゃんと分かっているので、そこはどうか許してほしい。
空いているその左手をぎゅっと握ると、大きな手のひらが優しく握り返してくれた。
「あー腹減った」
「あたしもー」
「なに食いたい?」
「肉! 美味しいの!」
「あはは、了解」
敬語が消えたのはいつだっただろう。気が付けばその堅苦しさはなくなっていて、もっと先輩を近くに感じられるようになった。
先輩はそういうひとだ。不安も、憤りも、悲しみも。その笑顔ひとつで全部溶かしてしまうから、あたしはこのひとを好きになったんだ。