「じゃあ俺、こっちだから」
「おー。お疲れ。またあしたな」
「お疲れー」
いつもの場所で大河と別れ、足早に駅に向かった。こんな生活も残り1年かと思うと、ちょっと淋しかった。
やがて駅に到着し、改札をくぐろうとした、そのとき。
「――あのっ」
聴いたことのない声に呼び止められたので、足がもつれて転びそうになった。女子の声だった。
「東出燿くん……ですよねっ。西高バスケ部のっ!」
「はい……そうっすけど」
「あの、わたし! 柊遥香(ひいらぎ・はるか)っていいます! 今年からナンジョの3年生です!」
たしかに南女子高等学校の制服だ。ナンジョは金持ちのお嬢さんが通うところ。美少女ぞろいとは聞いていたけれど、その制服に身を包んでいる彼女も、まさしくその通りだった。
こんな金持ちの美少女が俺になんの用だろう、とか。なんかやらかしたっけか、とか。ちょっと身構えたりもしていると、彼女が突然がばっと頭を下げたので、もとびびった。
「秋の大会のときからずっと見てました。す、す……好きです! よかったら付き合ってください!」
「……は?」
「試合見て一目惚れしました。それからときどき、この駅で見かけると嬉しくって……。でももう見てるだけじゃ苦しくって……気付いたら声かけてて、その、えっと」
いやいや。ちょっとなに言ってんのか全然分かんねんだけど。