雪がやみ始めている。駅が見えてきた。


「……結局、晶は東京に行くんすか?」

「うん、行くよ。ふたりですげえ話し合って、やっぱり行きたいし、行ってほしいって結論になった。……あ、そうだ。俺、春からおまえに見張られることになったから、監督よろしくな」

「え、なんすかそれ」

「浮気ダメ、ゼッタイ。らしい。しねえけど。信用されてねえのかな」

「あー……健悟さんモテるからなあ」

「あはは、なんだよそれ。残念ながら悲しいほどにモテねえよ」


なんてこった。無自覚かよ。やっぱりこのひとは天然だ。


「……健悟さん」

「ん?」

「晶のこと、マジでよろしくお願いします。あんなだけど。……きのう、やっぱり姉ちゃんが泣いてんのはやだなって思いました」

「……うん」

「だから、あいつのこと泣かせたら健悟さんでも許さないっすよ」


雪がやんだ。差していた傘を閉じ、歩みを止めると、健悟さんも俺のほうに向き直った。そして笑った。彼の肩の向こう側に見える太陽が眩しくて、思わず目を細めた。


「おっまえ。やっぱり晶のこと大好きだよなあ」

「えー俺って実はすげーシスコンなんすよ? 知らなかったんすか?」


健悟さんが盛大に笑う。


「知ってた! でも俺だって、燿に負けないくらい晶のこと大切に思ってる」


晶の彼氏が健悟さんでよかったと、心から思う。このひと以外だったら絶対に認められなかった。認めたくもねえかも。

本気で尊敬して、信頼している健悟さんだからこそ。安心してうちの姉を任せられるんだ。ちょっと意地っ張りで頑固な面倒くさいやつだけど、どうか見捨てないでやってほしい。


「いやいや。俺のほうが絶対にあいつのこと大切に思ってるし、心配もしてるっすよ」


俺はやっぱり蚊帳の外なんだろうけど、それでも。あいつの弟の座だけは死ぬまで誰にも譲れねーって、結構本気で思うよ。