目がちかちかしている俺に構わず、彼は歩みを進めながら、口を開いた。


「晶は頭が良いから、いろんなこと考え込んで、いろんな可能性を思いついて、それを全部ひとりで処理しようとしちゃうんだよな。それを知ってたのに、俺、晶に嘘ついたんだよ」

「嘘?」

「そう。『応援してる』って言った。もちろんそれは本当なんだけど……なんつーかな、100%ではなかったんだよな。やっぱり行ってほしくないって気持ちもどっかにあった」


遠距離恋愛って、俺が思うより遥かに難しいことなんだろうと思う。

少し前、晶に「おまえは遠恋なんかできない」と言ったけれど、俺もたぶんそっちの部類だ。きっと自分勝手に不安になるし、不安にさせるとも思う。それはたぶん、離れる前も、離れたあとも。

晶だって、相手がこのひとじゃなけりゃ、絶対に不可能なはずだ。


「だからな、かっこわりいけど、全部言おうと思って。行ってほしくない気持ちと、応援してる気持ち。それでちゃんと晶の気持ちも聞いとこうって。そしたらもうすげえ泣かれちゃってな、あー俺はなんてことをしていたんだ、と」

「俺が寝てるあいだにそれがあったわけっすね」

「わはは、そうそう、おまえが爆睡してる隣で。そりゃあもう壮絶なドラマがあったわけっすよ」


少し気になる気もするが、それと同じくらい、寝ていてよかったとも思う。そりゃそうだろ。姉ちゃんとその彼氏の会話に聞き耳立てるなんて、悪趣味にもほどがある。