玄関にはすでに健悟さんの姿はなく、それを見送った晶だけが残っていた。その隣にどかりと座り、ニューバランスのスニーカーを履く。
「俺も行くわ」
「え? まだ早いでしょ?」
「男同士の話があんだよ」
「ええ? くれぐれも変なこと言うなよ」
「あー。きのう大号泣だったこととかな」
「ちょっと、おい、マジで殴る……!」
おーこわい。健悟さんはいったいこの女のどこを好きだというのだろう。
それでも、晶の全部が好きだと言い放った彼を思い出して、少し身震いした。あんな台詞はイケメンにしか言えねーよ。俺には逆立ちしたって無理だもんな。
「じゃ、いってきまーす」
ドアを開けると、そこは一面の雪景色だった。
見事なまでの白銀の世界に小さくため息をついたあとで、もう雪に喜べない年齢になってしまったことを実感する。儚く消えた白い息がちょっと悲しかった。
「健悟さん! 俺も行きますっ」
「おー、燿」
4年前までは俺の先輩で、いまは姉の恋人のそのひとは、雪のなかで、男の俺でも見とれるくらいの甘い微笑みをこぼした。
「もう部活?」
「や、ちょっと早いんすけど。健悟さんと話してーなーと思って」
「うわ、こえー」
そんなこと言って、余裕そうな顔してんだもんな。本当に俺はこのひとにだけは敵わねーよ。