それでも健悟さんは「はい」と即答した。迷いなんか微塵もない、凛とした声だった。


「俺は晶さんの全部が好きです」


マジかよ。今度は本当に、そう声に出して言ってしまいそうだった。すんでのところで止めたけど。

照れたように笑った健悟さんに、父さんも笑った。静かに「そうか」とこぼした。そして、娘をよろしく、と。


ドラマを見ているみたいだ。身内でこんなことが起こるってのは、想像以上に恥ずかしくてむず痒い。晶もそわそわしているようだった。

母さんは大興奮で、俺の背中をもう思いきり叩くもんだから、食っていたビスケットが気管支に入るかと思った。暴力母娘め。どうにかなんねーの。


「じゃあ俺、帰ります。朝早くから本当にお邪魔しました」

「あっ、送る!」

「いいよ。雪降ってるし」

「でも……」


最後にぺこりと頭を下げ、リビングを立ち去ろうとした健悟さんを、晶がぴょこぴょこと追いかけた。きのうの涙はどこへ行ったのやら。そこには完全にふたりの世界が出来上がっていて、ちょっと居心地わりいよ。

なんだよ。せっかく心配してやったのにな。やっぱり恋愛ってのは、部外者が口出す必要すら無いってことか。

……でもなあ。


残りのビスケットを一気に頬張る。鞄とバッシュを掴んで、俺もそれを追いかけた。なんとなく、健悟さんとはちゃんと話しておきたいと思ったんだ。