母さんの話をテキトーに聞き流しながら、テーブルの上に並ぶお茶菓子をつまむ。腹減った。ビスケットじゃなくて朝飯を用意してくれよ。

しゃべっているのは母さんだけだった。それに健悟さんが微笑み返すくらいで、それ以外の3人は食うか飲むかって感じ。

そんな変な時間が15分ほど続いて、そろそろ限界かと思ったまさにそのとき、健悟さんがふと口を開いた。


「……あ。じゃあすみません、俺そろそろ帰ります」

「ええっ! お昼ごはん一緒に食べようと思ってたのにぃ」

「あー……すみません、これからバイトなんですよ」

「あらそうなのねえ。残念」


母さんは本当に健悟さんを気に入ったらしい。まあどこからどう見ても非の打ち所がないひとだし、当然か。なんてったって、彼女と喧嘩した翌朝にこうやって会いに来てくれるんだもんな。俺には絶対に真似できねーよ。

ふたりがどんな話をしたのか、ここに至るまでにどんな経緯があったのか。完全に寝ていた俺にはなんにも分からないけれど、きっと晶と健悟さんは仲直りしたんだろうと思う。晶がそんな顔をしている。


「水谷くん」


お邪魔しました、と頭を下げた健悟さんに、父さんが呼びかけた。同時に健悟さんの肩がびくりと跳ねる。

一瞬だけ、その場にぴりっと緊張感が走った。


「はいっ」

「……本当にうちの娘でいいのか」

「は……」

「俺に似て頑固者だし、神経質だし、頭が良すぎて疲れないか? 絶世の美女ってわけでも、これといった取柄もない晶で、本当にいいのか」


おいおい、マジかよ、ボロクソに言うじゃねーかよ。それが父親の台詞か。

思わず鼻で笑うと、テーブルの下で、思いきりすねを蹴られた。晶だ。いてえ。俺じゃなくて父さんを蹴ってほしい。