ベッドに腰かけた。すると、30センチ右にある細っこい手が伸びてきて、俺の肩をぐいぐい押しのけた。
「……かる」
「は?」
「ひかるう……っ」
やっていることと言っていることがちぐはぐなんだから困る。返事の代わりにぼりぼり頭を掻くと、変な沈黙が落ちた。
晶は相変わらず泣いている。俺の肩を押しのけながら。困った姉ちゃんだ。
「……健悟さんとなんかあった?」
「な……なんで分かんだよっ」
「そりゃおまえ。むしろ晶の悩みのタネっつったらそれしかねーわ」
晶は俺にとってずっと、世界でいちばん目ざわりで、こわい存在だった。なにがってわけじゃないが、いつもなんとなく、姉の全部が鬱陶しかった。
高圧的でふてぶてしい、神経質で口うるさい。晶はいつだって、俺の前では姉でいて。いい意味でも、悪い意味でも、完璧に姉をしていて。
それなのに。そんな姉貴が、いまは女の顔をしている。
「……どうしたんだよ。話せよ」
「燿のくせに優しくしてんじゃねーよハゲっ」
「ハゲてねーよデブ」
健悟さんと再会してから。健悟さんに恋をしてから。健悟さんと付き合ってから。晶は別人のように、急激に女の子になり始めたように思う。
健悟さんのことはそりゃもちろん大好きだけど、やっぱりそれなりに悔しいよ。だって俺、晶のこんな顔、17年間で一度も見たことがなかったんだ。