「まー不安がゼロなわけじゃねーけど。ちょっと抜けてるやつだから」
前髪の向こうで王子の瞳が優しく揺れる。まるで彼女のことを愛しくてたまらないと言っているみたいに見えた。
王子でもこんな顔するんだな。さすがにちょっとどきっとした。貴重なものを見てしまった。
「でも……わりと平気なんだね」
「なわけねーじゃん。でもS大に行くってのはあいつと付き合う前から決めてたし、それはそれだろ」
「な、なるほど」
「べつに距離が開いたからってダメになるとは思ってねーもん。ダメにする気もない」
さすがイケメンは言うことが違いますな。感動すら覚えるわ。
優しい微笑みのなかにも確かな自信を感じた。両端が少し上がった口元には、得意げな色さえ見えた。
王子の自信はきっと完全無欠、100%なんだろう。彼女さんとの信頼関係においても、自分自身の気持ちに対しても。そうじゃなきゃこんな顔でこんなことは言えない。
本当にかっこいい人間ってのは、たぶん、内側から滲み出るオーラがそれを形作っているんだと思う。
「その代わり、こっちにいられるぎりぎりまでは、なるべくあいつのわがままを聞いてやろうと思って」
「……そっか。なんかもう、さすがだね」
あたしは、先輩に対してこんなふうに思えるだろうか。ダメにする気がないだなんて、こんな顔で、自信をもって言えるんだろうか。
言いようのない不安が身体を蝕んでいくみたい。
それでも、もし。……もし、先輩が、晶となら大丈夫だよって言ってくれたなら。こんなふうに迷いのない瞳を向けてくれたのなら。
『きょうの放課後、会いたいです』
なんだか一刻も早く先輩の顔を見なければいけないような気がして、思わず連絡していた。
窓の外の雪は予報よりも激しく降っているようだった。すぐ向こうの景色すら見えなくて、なんだかこわくなる。