わざわざ持ってきてくれた赤本を受け取り、ぱらぱら見ていると、推薦入試よりも一般入試のほうが難しいのかな、という印象を受けた。
特に物理だ。大学の先生が作っている問題なんだろうけど、頭おかしいんじゃねーのかってくらい意味不明な問題ばかりで、頭が良すぎるのもどうかと思う。
難しいであろう物理と、王子が苦手な英語の話を少しして。せっかくだから物理と英語の参考書を貸してあげると、とても感謝された。
汚い書き込みばかりのそれを真剣に見ている彼を見上げて、ふと、ある疑問が浮かんだ。
「……てことはさ、水無月くん、東京行くんだよね?」
「うん」
「彼女さんは? 置いていくの?」
「……まあ、そうなると思う。それでいま喧嘩中。向こうが勝手に怒ってるだけだけど」
王子に彼女がいるというのは有名な話。しかもひとつ年下の、燿と同じクラスの子らしいんだから驚きだ。明るくて元気なやつだと弟は評価していた。
ふたりが付き合い始めたとき、たぶん学校中の女子がざわついていたと思う。なんてったってあの王子に彼女ができたんだもん。当然だ。
でも、王子の彼女なんて恐れ多すぎるってんで、誰も本気でその座を狙っていたわけではなくて。むしろ王子の彼女をまっとうしているその子に憧れる女子ばかりなんだから面白い。
「……不安とか、ないの?」
「なにが?」
「遠距離恋愛じゃん」
「あー」
ぱらぱらめくっていた参考書を閉じると、王子は長い睫毛を伏せて、「うん」と頷いた。