ふと、思い出したように彼がぺこりと頭を下げた。
「……あ。俺、水無月っていうんだけど。4組の」
「ああ……はい。東出です、どうも」
そんな、いまさら自己紹介なんてしていただかなくても知っていましたけれど。マイペースなひとなんだなあ。
涼しげな目元が優しくあたしを見下ろしたので、もしかしたら思っていたよりもこわいひとじゃないのかもしれないと思った。近くで見るとますますきれいな顔だ。
「東出さん、S大受かったって聞いたから」
「あーうん。おかげさまで」
「傾向と対策を聞こうと思って」
「王子……じゃなくて水無月くんもS大受けるの?」
「うん。俺は東出さんほど頭良くねーから一般でだけど」
顔も良くて頭も良いのかこいつは! おまけに性格も悪くなさそうだし、天は二物も三物も与えやがるなあ。少しはうちの弟にも分けてやってくれ。
ぜひ燿に見せてやりたいよ。これが真のイケメンなんだと。水無月くんはあいつみたいに制服を着崩したりしない。それでもキマっているのだから恐れ多い。
「学部どこ?」
「理工学部」
「あ、あたしも理工学部だよー! 物理が結構やばいと思う。難しかった」
「マジで。英語は?」
「英語はそこそこ。ちょっと読解がひねくれてるかもなー。赤本やってる?」
「うん。でもいまはほぼセンター対策」
王子は英語が苦手らしい。長めの前髪の向こうで、きれいな顔がちょっと苦い顔をした。